「LINK」4

  3

 クロードは目を覚ました。目を覚ますということは、どうやら生きているらしい。

「お兄・・・ちゃん?」

 レオンが傍らに座ってクロードの顔を覗き込んでいた。水のせせらぎが聞こえる。ここは川岸であるらしい。体を起こそうとするが、「クッ・・・」上手く体が動かない。

「レオン・・・無事か」

「お兄ちゃんこそ無事じゃないよぅ・・・」

「とにかくどこか、安全な場所に移ろう」

 この大陸に安全な場所などあるのか疑わしかったが、運良く川辺に洞穴があった。クロードはレオンの手を借り洞穴の中に移動した。魔物の巣窟でない事を祈りつつ。

「ひどい・・・」

 クロードの体は全身傷だらけだった。特に、服を脱いで解った事だが、レオンを庇った時の魔物の爪痕が、背中に深々と残っていた。

「どうしよう・・・、薬・・・止血、縫合しなきゃ・・・消毒・・・でも、道具が・・・」

「(軍支給の)超小型医療キットなら・・・」

 針と糸はあった。しかし麻酔がなかった。これだけ大きな傷を縫合する間、苦痛に耐えなくてはいけないのか。今痛みを堪えるだけでも、クロードの額には大粒の汗がにじんでいる。

「ちょっと待ってて!」

 言うが早いかレオンは外へ飛び出して行ってしまう。

「おい待て、レオン!」

 クロードは痛む体を引きずり追おうとするが、立つ事すらままならずに倒れてしまう。思えばだいぶ血も失っている。瞼が重くなり、レオンが紋章術で点火させた携帯用の明かりの明滅を瞼の裏に感じながらクロードは眠りに落ちていった。

「ちゃん・・・お兄ちゃん!なにやってるのこんなところで?」

 クロードが再び目を開けると、両手いっぱいの植物を抱えたレオンの姿が見えた。

「馬鹿野郎・・・、一人で魔物に襲われたらどうするんだ」

「馬鹿はそっちだよ。これ以上傷を広げてどうするのさ」

 レオンは早速積んできた薬草の調合を始めた。

「ずいぶん沢山集めてきたな・・・」

「ボーマン先生に色々教わっといて良かったよ。さあ、これを吸って」

 レオンは刻んだ葉を紙に巻いて火を点け、クロードに渡した。

「これは・・・?」

「痛みは薄れると思うから・・・。あ、煙こっちによこさないでよ」

(麻薬のようなものか・・・)

 レオンが他の薬草の調合を終えたころ、薬の効果かクロードの意識は朦朧としていた。縫合も無事に終え薬を塗ったまでは良かったが、最後にあまりに苦い薬を飲まされクロードの意識はすっかり覚醒した。

「うげえ・・・なんだコレ」

「雑菌に侵されて発熱しても困るからね」

「しかしひどい味だな・・・っと!」

 立ち上がろうとしたクロードだったが、バランスを崩してよろめく。頭はハッキリしていても体はまだ薬の支配下にあったのだ。

「危ない!」

 ドサッ!

 レオンはクロードの傷を庇おうと下敷きになり、二人は一緒に倒れこんだ。

「いたた・・・」

「悪い、レオン・・・。怪我してないか、見せてみろ」

 レオンは露わになっていた腕や脚を岩に打ちつけたらしい。うっすらと血のにじんだ跡が、白い肌に痛々しかった。

「こんなのお兄ちゃんの怪我に比べればどうってコトないって。舐めておけば治るよ」

 レオンはおよそ科学者らしからぬ事を言う。

「舐めておけば・・・」

 クロードは半ば無意識のうちにレオンの腕をとり、赤くなった部分を舌で撫でた。

「おおお兄ちゃん!?自分でするからいいよ!」

「でも・・・こんなところ自分じゃ舐めづらいだろ?」

 クロードは自分に言い聞かせるように言った。

「でも・・・」

 クロードは先の傷口を再び丹念に舐め始めた。頭の中でガンガンと警鐘が鳴り響いていた。自分がなぜこんな事をしているのか説明がつかなかった。だが今の彼は自分の行動を抑えるすべを知らなかった。自分の舌がレオンの痛覚を刺激する度にレオンの小さな口から微かに吐息が漏れる。その音を聞くと、自分の行動が抑えられなくなった。冷たい岩肌と自分の体に挟まれたレオンの細い体を思った時、クロードは自分が勃起している事に気が付いた。レオンの潤んだ瞳を覗き込んでしまった時、クロードは罪悪感と官能を同時に揺り動かされた。薬のせいか、頭がぐらぐらと揺れた。もはや世界もぐらぐらと揺れていた。世界が渦を巻いて一つの混沌へ落ちていくように、クロードには感じられた。右腕に始まり続いて左腕、そして右足にも彼は唇を這わせようとしていた。

「もう、やめて・・・」

 レオンは強く抵抗しようとはしなかった。ただ、ずっと細かく体を震わせていた。岩肌に打ちつけた部分だから、当然傷は脚といってもその背中側についている。クロードはレオンの足を持ち上げて仰向けのままのレオンの体を曲げて押さえつけた。大股開きのまま押さえつけられ、レオンは羞恥に涙を流したがクロードはレオンの脚を舐め回すことにいっそう夢中であった。

「服の下にもまだ怪我してるかもしれない・・・見た方がいいな」

「え・・・」

 レオンが戸惑う間にもクロードはレオンの服のボタンをひとつひとつ外していってしまう。

「あっ、やっ、やあぁ・・・」

 洞穴の入り口には、音も光も臭いも通さない紋章結界をレオンが張ったために他の何一つ聞くものはいなかったが、クロードだけがレオンの切ない泣き声を聞いていた。



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