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「母さん、起きてたんだ・・・」
「クロード、お帰り・・・。帰りは明日じゃなかったかしら?」
「早く自分の家のベッドで寝たくてね」
「何子供みたいな事言ってるのよ。・・・ずいぶん大変そうね」
「英雄ロニキス提督の穴を埋めなくちゃいけないからね」
イリアの表情が曇る。クロードは慌てて付け加えた。
「別に気負ってるわけでも誰かに言われたわけでもないよ、ただ、解るようになったんだ。父さんが、どれだけ偉大で重要な存在だったかが・・・。なぜあの時はそれを素直に受け入れられなかったのか・・・」
「そういうものよ。いいから、早く着替えて肩の荷を下ろしなさい。それから、レオン君もまだ起きてるわよ、きっと」
「ただいま」を言えというのだろう。しかしクロードにとっては単にそれだけでは済まないので、思案に暮れて短く嘆息するのであった。
レオン・D・S・ゲーステは現在地球に住んでいる。紋章学の権威として、また、宇宙連邦の技術を学ぶため、連邦の研究所に出入りしている。本来惑星エクスペルは未開惑星として不干渉が原則なのだが、今回の宇宙規模の事件と深く関わりすぎたために、監察付きの保護干渉が進められていて、主に十賢者事件の勇者たちを中心に行き来もある。レオンはその一人で、また、プリシスも地球に来ていた。しかし、原則的に不干渉ではある。レオンの場合は十賢者事件による紋章科学の安全対策の必要性から認められているらしいが、イリア女史の「いいじゃない」の一言で認可されたという噂もある。
レオンは、クロードの母イリアにすっかり気に入られこの母子と同じ家に暮らしているのである。
「レオン、ただいま・・・」
ノックの後心なしそそくさと部屋に入る。うずたかく積まれた本の山々の中、レオンはコンピュータのディスプレイと書物を見比べ何か思考していたようだった。
「やあ、お兄ちゃん・・・。早かったね」
気のない態度だがその端々から突っかかるような印象を受ける。一年前と変わらない。身長は少しは伸びた。しかしフェルプールは一般に――事例は少ないが――成長が遅く、というより成長の限界が低く小柄で華奢である。
クロードはレオンの心中を図りかね次の言葉をためらった。あれ以来、クロードにべったりで地球までくっついてきたレオンだが、今ではその口実としての研究だったのか研究の方が本懐だったのか判断がつかない。
「レオン、あのな・・・」
「何?」
「俺・・・しばらく任務続きで、家にいない事が多かったろう・・・」
「だから?」
「二人で過ごす時間もずっととれなかったし・・・」
「それで?」
クロードは携帯用デバイスを操作して付属ディスプレイをレオンのほうに向けた。
「明日の休みにと思って、スペースボールの観戦チケットを予約してるんだ・・・」
「・・・」
「いや、映画でもいいんだけど・・・買い物でも。遊園地って言う歳でもないかと思って・・・」
「はあ?いきなり帰ってきて明日はスポーツ観戦に行くだって?あのね、僕にだって予定はあるの。明日は研究室空けてもらって実験する予定が入ってるんだよ!」
「え・・・」
「あのさあ・・・世の中全部自分の思い通りとは限らないんだよ?」