BAD PARTY「そんな気持ちはもう残っていないと思っていた」1


 ――様々な人と、人ならざるものの生きる大地「トリトスカイノ」。空にはただ一つの太陽「エリオ」と、ふたつの月「フオビア」と「ダイモニア」が浮かぶ。

 人は鉄を打って武器を作り、己に無い力を借りる魔法と言う秘術を編み出したが、それでもまだ全ての命あるものの覇と言うには程遠かった。高く頑丈な壁に囲まれた内側だけが人間の王国であり、外に出れば自然の脅威と野生の恐怖があった。それでも人間は豊富で雑多な種族のひとつだった。

 そんな、人が作った街のひとつに、「逃亡者」は来ていた。

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 こんな街までは「追跡者」もまだやってこない。世界は広い。そう簡単にみつけられはしない。だから、この『追憶の輝き』のような秘宝を手に入れる余裕もあった。魔術研究の対象としてはなかなか興味深い。早速マジックギルドで正式に所有を認められた『追憶の輝き』を取り出して手に乗せてみた。自由に空中を漂う水のような、そんな印象を与える不思議な形状の金属の装飾に包まれた小さな宝玉だ。目線の高さまで持ち上げて、BARのランプの光に透かして見た時――


 ――私よりも、手本とするべき術者はたくさんいるじゃないか。

「それでもあなたは、僕の夢なんです」


「愛しています・・・だから・・・」


 ――私達は、もう・・・


 BARに人が入ってきた音で我に返る。あまりに懐かしいものを見ていた。愛しき追跡者。どんなに近くても決して触れられない彼女。ほんの以前まではあんなにも・・・。つまらない事を考えてしまった。どうやらこの宝玉には、精神魔法に関わる力があるらしい。その名の通り記憶系の。

「あ、あの・・・」

 ため息を一つついてグラスを傾ける。もちろんアルコールではない。真昼間から酔おうなどという人間の気が知れない。もっとも、夜になろうが酔っ払うつもりは無いが。

「す、すみません・・・」

 ふと前に目をやると、男が二人立っている。というか一人は子供だ。背丈は自分と変わらないが、明らかに酒場の空気に馴染んでいない。さっきから周囲を見回してはびくびくしている。眉は常に頼りなく八の字に下がっているものの、顔立ちはむしろ整っているといえる。細やかな金の髪も美しいが着ているものはずいぶん質素だ。

「ご、ごめんなさい・・・僕、シルクっていうんです」

 尋いちゃいないよそんな事。もう一方に目をやると、やたらと退屈そうな面倒そうな、人を見下したようなむかつく顔でこちらを見ている。こちらは背も高くガタイもいい。

「そ、それ!・・・『追憶の輝き』ですよね!」

「あ、ああ。なんでそれを・・・」

「えっと、街のあちこちで聞いてきたんです。そして最後にマジックギルドへ行ったら、人手にわたってしまったって聞いて・・・」

「それで、何か用なのか?」

 単刀直入に尋ねると、子供はビクッとして、それから困ったような顔をし、悩んだ挙句、こう言った。

「あの・・・それ、頂けませんか?」

「な、なんだと!?」

「ひぅぅ・・・、ご、ごめんなさい、ごめんなさい」

 思わず手をついて立ち上がってしまった。この宝玉は、この街のマジックギルドに保管されていると聞いてわざわざ訪ねたが、盗賊団にマジックアイテムを根こそぎ奪われた直後であり、Bランクに位置付けられている『追憶の輝き』だけ報酬に貰う約束で、盗賊団から盗品を奪い返す依頼を受けて入手したのだ。盗賊団のアジトでは、極力無駄な戦いを避け、自分を発見した一人だけを魔法で黙らせたのみでアイテムを奪い返す事ができた(その一人が実は盗賊団のボスだったのだが、彼には知る由もなかった)。青年の名はシンナ。魔術師である。もちろん腕に覚えもある。代々秘術を守り受け継いでいる由緒正しい魔術師の一族の出なのだ。それほど苦労はしていないがそれなりに危険を冒して働いた報酬である。それを見ず知らずの人間によこせと言われて素直に聞けるはずが無い。

「あ、あの・・・タダでとは言いませんから、でもお金はあんまり持ってないんですけど・・・」

「ふざけるな、Bランクのマジックアイテムの価値を知らないのか!」

 マジックアイテムはマジックギルドが統括して管理している。鑑定・保管、場合によっては譲渡を決定する事もある。悪用を避けるためにマジックアイテムの所有は原則としてギルドでの許可が必要になる。Bランクのマジックアイテムならば、正式な手続きでギルドに買い取ってもらえば数ヶ月は食うに困らないだろう。

「もういい、言っただろう、時間の無駄だってな」

「ごめんなさい、でもぉ・・・あ、待ってルゥザさん!」

 背の高い男は勝手にその場を離れてしまい、小さい方も「すみませんでした」とシンナに一礼し、後を追って行ってしまった。酒場の客たちがその妙な組み合わせの二人組を好奇の目で見送る。シンナにも何がなんだかわけがわからなかったが、背の高い方の男の、話をするのも無駄といわんばかりの有無を言わせぬ態度が気に入らなかったことだけは、確かだった。



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